82歳、最後のライブ
ブロッサム・ディアリーをご存知ですか?
私は、つい最近になって彼女のことを知りました。きっかけは、友達からもらった一枚のCDでした。
いつも新しい音楽を見つけると送ってくれる友達なのですが、そのCDは、なかなか手に入らなかったものだったそうです。それでも「どうしても聴かせたい」と思ってくれたのでしょう。CDと一緒に届いた手紙には、80歳を過ぎてもステージに立ち続けた、ブロッサム・ディアリーについて書かれていました。
早速、聴いてみました。
そこで耳にしたのは、とても80歳を過ぎた女性の声とは思えない、少女のように甘く、チャーミングなウィスパー・ヴォイス。私はたちまち、その小悪魔的でコケティッシュな歌声に引き込まれてしまいました。
そして、もう一つ心を奪われたのが、無駄を削ぎ落としたような、洗練されたピアノの弾き語りです。
「ブロッサム・ディアリー」という名前は、まるで洒落た芸名のようですが、実は本名なのだそうです。その可憐で甘い歌声から、おっとりとした女性を想像してしまいますが、ステージ上の彼女は、むしろ厳格な人だったといいます。
演奏中に食器の音を立てたり、おしゃべりをしたりする客がいると、演奏を止めて注意したという逸話も残っています。
「音楽を聴くために来ているのなら、音楽を聴いてほしい」そんな彼女の強い意志が伝わってくるようです。
1970年代、音楽業界の主流がロックへと移り、ジャズを取り巻く環境が厳しくなっていった時代にも、彼女は決して流行に迎合しませんでした。自分の音楽を守るために自主レーベルを立ち上げ、ニューヨーク、パリ、ロンドンを行き来しながら、自分にしかできない音楽を貫き続けたのです。
年齢を重ねても、その姿勢は変わりませんでした。70歳を過ぎてもステージに立ち続け、晩年までニューヨークで歌い、ピアノを弾いたブロッサム・ディアリー。
その姿を知るほどに、私は彼女を「ストイックで、美しく、そして粋な人」だと思うようになりました。彼女が最後に発表した公式音源の一つに、「It’s All Right to Be Afraid」があります。
2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を受けて録音されたこの曲は、傷ついた人々の心にそっと寄り添うような作品でした。
あれほど甘く可愛らしい声で歌う彼女が、人生の終盤に届けた音楽が、恐怖や悲しみを抱える人々への優しい言葉だったことにも、私は心を動かされます。
それにしても――
これほど長くステージに立ち続けることができた彼女を、最後まで支えたものは何だったのでしょう。音楽への情熱でしょうか。
それとも、自分が選んだ生き方を最後まで曲げない、強い意志だったのでしょうか。
私は、自分が彼女の年齢に近づいていくにつれて、時々ブロッサム・ディアリーから教えられているような気がします。
人は、年齢を重ねれば変わっていく。
けれど、自分らしさまで失う必要はない。
「可愛い声の少女」のような歌声を持ったまま、年齢を重ねても、自分の音楽を愛し、自分のスタイルを貫いたブロッサム・ディアリー。
その生き方は、今も色褪せません。
そして、彼女の歌声を聴くと、不思議なことに、年齢というものが少し違って見えてきます。彼女が残してくれた、甘く可憐で、そして凛とした歌声。
ーーー
今日は、そんな彼女の音楽に、耳を傾けてみませんか?
Someone To Watch Over Me
Topic channel


