巨峰の記憶
高校生の頃、私は生徒会の書記を務めていた時期がありました。今となっては、生徒会長が誰だったのかさえ思い出せません。それでも、不思議と心に残り続けている出来事があります。
生徒会のメンバーの中に、一学年下の男子生徒がいました。副会長だったのか、会計だったのか、その役職すら定かではありません。ただ、当時の私は彼に特別な関心を持っていたわけでもなく、印象もどこかぼんやりとしていました。
そんなある日、私は理由もなく学校を休みました。熱があるわけでもなく、ただ「今日は行きたくない」と思っただけの、気まぐれな欠席でした。自室で本を読んだり、音楽を聴いたりしながら、静かな時間を過ごしていた午後のことです。
家の者に「あなたを訪ねてきた人がいる」と呼ばれ、玄関に出てみると、そこにはあの年下の生徒会の彼が立っていました。
「今日、お休みされていたので心配になって……」
そう言って彼は、見舞いの包みをそっと差し出しました。どうして私の家を知っていたのか、今でもわかりません。ただ、物静かな口調とまっすぐな眼差しが、強く印象に残っています。きちんと整えられた制服の着こなしも、どこか凛としていて、周囲の男子生徒たちとは少し違う雰囲気をまとっていました。詰襟からのぞく真っ白なシャツの清潔感まで、なぜか今も鮮明に思い出せるのです。
彼が帰ったあと、私はその包みを開けてみました。中には、見事な巨峰が一房入っていました。当時の私にとって、巨峰はまだ高価で、口にしたことのない特別な果物でした。
一粒を口に運ぶと、上品な甘さが静かに広がり、果汁があふれ出しました。指先に紫の色が移るほどみずみずしく、そのひと粒ひと粒を、私は大切に味わいました。
当時の私はすでにボーイフレンドもいて、その出来事もただの一日の思い出として過ぎていきました。それでも不思議なことに、その後、巨峰を口にするたび、ふと彼の面影がよみがえるのです。
今になって思えば、彼はきっと、穏やかで思いやりにあふれた人だったのでしょう。高校二年で生徒会に加わり、静かに周囲を気遣えるような、そんな人物だったに違いありません。
あの少年は、その後どんな大人になったのでしょうか。巨峰を食べるたびに、私は思わず想像してしまいます。もし再会できたなら——そんな淡い願いさえ、胸の奥に浮かびます。
私にとって巨峰は、ただ甘くて美味しい葡萄というだけではありません。あの日の静かな午後と、小さな優しさを運んできてくれた彼の記憶が重なった、かけがえのない青春の味なのです。
素敵な思い出を噛みしめながら…
If Only My Heart Could Speak (Acoustic Sessions / Live From Nashville)
Official Artist Channel


