Essays & Music

⭐︎Will You Dance?

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「岸辺のアルバム」と、あの歌

ジャニス・イアンの「Will You Dance?」を、久しぶりに聴いた。そのイントロが流れた瞬間、遠い記憶がふっと蘇ってきた。

思い出したのは、1977年にTBS系で放送された、山田太一脚本の名作ドラマ『岸辺のアルバム』。

放送当時、私は20代だった。
あれから、もう半世紀近くになる。
それなのに、この曲を聴くと、あの頃の空気までが昨日のことのように戻ってくる。

「Will You Dance?」の歌詞の意味を、当時の私はよく分かっていなかった。ただ、ジャニス・イアンの哀切を帯びた歌声とメロディーが、ドラマの世界にあまりにもよく似合っていたことだけは、今でも鮮明に覚えている。

『岸辺のアルバム』は、東京郊外、多摩川沿いに暮らす一見平穏な四人家族の物語だ。

父・謙作は商社に勤める真面目な父親。
しかし、仕事に行き詰まり、家庭の中でも孤立を深めていく。

母・則子は、優しく従順な専業主婦。
けれど、家族から必要とされていないような寂しさを抱え、その心の隙間に入り込んできた若い男性との関係にのめり込んでいく。

娘の律子は大学生。
しっかり者に見える一方で、深い心の傷を抱え、自暴自棄になっていく。

息子の繁は受験を控えた高校生。
家族の中に漂う不穏な空気を敏感に感じ取り、葛藤していく。

どこにでもありそうな、普通の家族。

けれど、その「普通」の内側には、誰にも言えない秘密と孤独が積み重なっていた。

当時のホームドラマといえば、どんなに家族が揉めても、最後には「家族っていいものね」と丸く収まる作品が多かったように思う。

けれど、山田太一は違った。
人間の弱さや身勝手さ、愛されたいという欲望、そして家族であっても埋められない孤独を、きれいごとで包まなかった。

一度壊れてしまった関係は、「ごめんね」のひと言だけでは、元には戻らない。そこにあるのは、誰か一人が悪いという単純な話ではない。

家族の一人ひとりが、それぞれの寂しさを抱えながら、少しずつすれ違っていく。

そして物語の舞台となるのが、多摩川沿いの一軒家だった。その家を襲うのが、1974年に実際に起きた多摩川堤防決壊をモチーフにした大水害である。

濁流に飲み込まれていく家。
まるで、それまで家族を覆っていた「偽りの平穏」までも、一緒に流されていくようだった。

そのとき、母・則子が必死に守ろうとするものがある。
家族のアルバムだ。
アルバムって、何なのだろう。
一枚一枚の写真には、家族が笑っていた時間が残されている。

誕生日。
旅行。
子どもたちの成長。
何気ない日常。

そこに写っているのは、「私たちは、確かに家族だった」という証なのかもしれない。

あるいは、母親にとっては、
「私は、この家族を愛してきた」
「この家を守ろうとしてきた」
という、自分自身の人生の証だったのかもしれない。

だからこそ、家が流されようとしているとき、アルバムだけは手放したくなかったのではないだろうか。私は、そんなふうに思う。

それにしても、今から50年近く前の作品だというのに、不思議なくらい古さを感じない。
むしろ、今観るからこそ胸に刺さる。
家族だから分かり合える。
家族だから愛し合える。
本当に、そうなのだろうか。

同じ屋根の下で暮らしていても、心の中にあることをすべて話せるわけではない。そして、家族に囲まれていながら、ひどく孤独になることだってある。

だから私は、『岸辺のアルバム』を思い出すたびに、これは昔のドラマではないと思います。
今も、私たちのすぐそばにある物語のような気がします。

最後に家が濁流に飲み込まれていく。
家も、そこにあった暮らしも、そして家族を覆っていた「偽りの平穏」も、すべて流されてしまう。けれど、すべてを失ったからこそ、初めて見えてくるものがある。

私は、この家族がその後どうなったのかが、今でも気になります。

本音をぶつけ合ったあと、この家族は壊れてしまったのだろうか。それとも、何もかも流された場所から、新しい関係を築き直していったのだろうか。

ドラマは、家族のその後をすべて説明して終わるのではない。だからこそ、観終わった私たちの心に、その続きを委ねているように思える。

もしかすると、それこそが山田太一という作家の凄さなのかもしれない。答えを与えず、私たち自身に問いを残していく。

――家族とは何なのか。
――愛するとは、どういうことなのか。
――一度壊れたものは、本当にもう一度、つくり直すことができるのだろうか。

久しぶりに聴いた「Will You Dance?」は、そんな遠い問いまで連れてきた。

1977年。
あの頃、私は二十代だった。
あの頃の私が、半世紀近く経った今、このドラマをもう一度観たら、何を思うのだろう。
若かった自分には見えなかったものが、今なら少し分かるような気がする。

そして、ジャニス・イアンの歌声は、あの頃と変わらず静かに問いかけてくる。
――Will you dance?

あなたなら、この家族のその後をどう思いますか?壊れていくのでしょうか。
それとも、すべてを失ったところから、もう一度、家族になっていくのでしょうか。

久しぶりに、山田太一の作品を無性に観たくなりました。

ーーー
もう一度、あの曲を聴いてみましょう。
ジャニス・イアン。
「Will You Dance?」
あの頃の記憶と一緒に。

Will You Dance?

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