老いても、なお
商店街を歩いていた時のことです。
数メートル先を、年老いたご夫婦が歩いていました。
お爺さんは、一人で歩くのも大変そうでした。両腕を少し後ろに曲げ、体重のバランスを取りながら、すり足でゆっくりと歩いています。
その隣には、体がくの字に曲がったお婆さんがいました。お婆さんは、お爺さんの手をしっかりと握っています。まるで、その手に自分の体も心も預けているようでした。
けれど私は、ふと気づいたのです。
お爺さんだって、決して楽に歩いているわけではない。それなのに、お婆さんの手をしっかりと握り、「この人は自分が守る」とでも言うように、一歩一歩、歩いている。
たった、それだけの光景でした。
けれど、なぜか胸が熱くなりました。
そして私は、その二人を追い越すことができなくなってしまったのです。
気がつけば、私も二人の歩幅に合わせるように、数メートル後ろをゆっくり歩いていました。二人の姿を見ながら、私は思いました。
「このお婆さんは、なんて幸せなんだろう」
長い年月を、この人に大切にされてきたのだろう。そう思うと、目頭が熱くなりました。
お爺さんは、もしかすると「お婆さんを守るために生きている」のではないだろうか。
そんなことまで考えてしまいました。
この先、どちらが先にいなくなってもいけない。そんな思いまで抱きながら、私はしばらく二人の後ろを歩いていました。自分がどこへ向かっているのかさえ、忘れてしまうほどでした。
そういえば、少し前に、こんな話を聞いたばかりでした。
年老いたお婆さんが、和式トイレでしゃがんでいたら、立ち上がれなくなってしまった。
そこで、お爺さんに助けを求めたところ、お爺さんが助けに来てくれた。
ところが、そのお爺さんもまた、お婆さんに覆いかぶさったまま、立ち上がれなくなってしまった。結局、二人そろってトイレから出られず、何時間もそこで過ごしたというのです。
思わず笑ってしまう話ですが、同時に、老いて二人だけで暮らしていくことの大変さも感じました。それでも、きっと二人とも、施設に入るより、できる限り二人で暮らしたいと思っているのでしょう。
そんなことを考えていたら、今度は自分のことが気になりました。
「もし私がこのお婆さんだったら……」
そして、
「果たして、夫は私を守ろうとしてくれるのだろうか?」答えは出ませんでした。
ただ私は、相変わらず二人の後ろを歩いていました。
女性は、ほんの小さな一言や、何気ない仕草だけで、一生幸せに生きていけることがあるのだと思います。
手を握ってくれる。
歩幅を合わせてくれる。
振り返ってくれる。
そんな小さなことが、長い年月の中では、大きな愛になるのかもしれません。
老夫婦の後ろを歩いたのは、たった二百メートルほどの道のりでした。けれど私には、それがずいぶん長い道のりに思えました。
ゆっくり、ゆっくりと歩く二人の背中を見ながら、私は「夫婦」というものについて、そして「誰かに大切にされる」ということについて、静かに考えていたのです。
あれから随分と年月が経ちました。
それでも私は、時々あの二人を思い出します。
老いても、なお。
誰かの手を握り、誰かに手を握られて歩く。
そんな人生であったなら、それはきっと、幸せなのだと思います。
ーーー
このことを思い出す時、いつも
優しいメロディーが浮びます!
Before spring ends
Topic channel


