青いボトルが待つ部屋で
深夜二時。
机のスタンドライトが、サファイアブルーの滑らかな磁器の肌を、静かに照らしている。
私の目の前にあるのは、「ロイヤルサルート21年」のブルーボトル。
一月末の出版を控え、最後の原稿整理に追われる私の書斎で、そのボトルは、まるで静かな守護神のように、ずっしりとした存在感を放ちながら佇んでいる。
ロイヤルサルート21年は、1953年、エリザベス2世女王の戴冠を祝して誕生したスーパープレミアム・ブレンデッドスコッチウイスキーだ。
この美しい酒を、私は先日の誕生日に、ある知人から贈られた。包みを開け、青いボトルが姿を現した瞬間、私は思わず息を呑んだ。
背中を鳥肌が走るような、不思議な衝撃だった。なぜなら、この酒は、私が今まさに世に送り出そうとしている小説の中で、「約束の象徴」として描いていたものだったからだ。
私の小説には、こんな場面がある。
二人の間で交わされる、ささやかな約束。
「そのお金を取り戻すことができたなら……その時は、一杯奢ってもらえませんか?」
私は、そんな言葉を物語の中に置いた。
そして今、その約束の象徴として書いた酒が、現実の世界で私の目の前にある。プレゼントを贈ってくれた知人は、私の原稿を読み、率直な意見を聞かせてくれた人でもある。
だから、この贈り物は、単なる誕生日のお祝いには思えなかった。私が紡いできた言葉を信じ、孤独な執筆の日々を見守り、応援してくれている。そんな無言の、けれど何より力強いエールのように感じた。
これほど小説家冥利に尽きる祝福が、ほかにあるだろうか。
ロイヤルサルートのボトルは、ガラスではない。職人の手によって作られた、美しい磁器でできている。だから、光にかざしても、中にどれほどの酒が残っているのかを見ることはできない。
それが、どこか今の私自身と重なって見えた。
一月末、本が刷り上がり、読者のもとへ届いたとき、私はどんな景色を目にするのだろう。
売れるのか。
読んでもらえるのか。
どんな言葉が読者の心に残るのか。
今の私には、まだ何も見えない。
けれど、見えないからこそいいのかもしれない。この青いボトルの中身が見えないように、未来もまた、開けてみるまで分からない。
ただ、このずっしりとしたボトルを手にすると、そこには、贈ってくれた人の温かな信頼と、まだ見ぬ未来への小さな希望が詰まっているように思える。
だから私は、まだ封を切らない。
一月末。
無事に本が出版され、私自身の長い「闘い」が、ひとつの結実を迎えるその日まで。
この青いボトルは、大切に、大切に、デスクに飾っておこうと思う。
そして、その日が来た夜にはじめて、封を解く。グラスに注いだ瞬間、部屋いっぱいに広がるのだろうか。洋梨や蜂蜜を思わせる、甘く豊かな香りが。
その一杯は、単なるウイスキーではない。
ここまで書いてきた時間と、支えてくれた人への感謝。そして、まだ見ぬ未来への乾杯。
深夜二時。
青いボトルは、今日も私の机の上で静かに光っている。
私はもう少しだけ、原稿に向かおう。
その先にある、一杯の乾杯を思いながら。
ーーー
青いボトルを前にして……
Lucky To Be Me
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