風の料理人に出会った夜
平成10年の夏。
私は、宮城県の鳴子温泉にある宿「みやま」で開かれた、特別な料理会に参加しました。
当時、佐々木志年さんは、全国を飛び回る「風の料理人」として活躍していました。
熊本・天草生まれの佐々木さんは、京都の「吉兆」などで和食の修業を積み、決まった店を持たず、竹籠に道具を背負って全国を巡る「出張料理人」の先駆けとして知られていました。
素朴でありながら、本物を追求する「みやま」の姿勢と、土地の食材、そしてその日、その場所で出会う人との一期一会を大切にする佐々木さんの料理。その二つが出会ったのが、この料理会だったのだと思う。
鳴子の山の幸、川の幸、そして宮城の食材。それらが、佐々木さんの手によって、目の前で次々と一皿の料理へと変わっていく。
私の手元には、今もその時の直筆のお品書きが残っている。
平成10年7月25日・26日。
夏の鳴子温泉「みやま」で供された料理には、胡麻豆腐や蓴菜、海老、冬瓜、椎茸、きす、鮎、加茂茄子、枝豆など、季節の食材が並んでいた。
そして朝食には、地場野菜のサラダ、梅がゆ、和珈琲とデザート。
なかでも心に残っているのが、最後に出された「お麩のフレンチトースト」だった。
地元の麩を使った、思いもよらない一品。
和の食材を、こんなふうに料理するのか――。
その驚きは、今でも鮮明に覚えている。
料理だけではない。
佐々木さんは、近くの山から折ってきた瑞々しい木々をさりげなく飾り、土地の食材を、時に大胆に、時に繊細に仕立てていく。
料理を食べるだけではなく、目の前で生まれていく一皿を楽しむ。
あの夜は、まさに「食」を通した最高のエンターテインメントだったのだと思う。
佐々木さんの料理から感じたのは、技術だけではなかった。料理を通して、自分の世界を表現しようとする「表現者」としての情熱だった。
あれから、長い年月が流れた。
けれど、引き出しの中に残された一枚のお品書きを見ると、あの夏の夜がふっと蘇る。人生は長いようで、振り返れば、驚くほどあっという間だ。だからこそ、その時々に心を動かされたことには、迷わず飛び込んでみたい。
たった一度の経験でも、心に刻まれたものは、何十年経っても色褪せないから。
あの夜、鳴子で出会った「風の料理人」と、その一皿一皿は、今も私の中に静かに残っている。
ーーー
一期一会の夜を思い出して……
Morning Has Broken – Cat Stevens – Lyric Video
Official Artist Channel


