Essays & Music

⭐︎Mischa Maisky performs Bach’s Prélude from his Cello Suite No. 1 in G Major, BWV 1007

Essays & Music

光琳のアトリエにて

MOA美術館には、これまで何度も足を運んできました。
尾形光琳の国宝《紅白梅図屏風》をはじめ、数多くの国宝や重要文化財を所蔵し、洗練された展示空間に能楽堂や茶室まで備えた、まるで一つの芸術世界のような場所です。

入口から本館へ向かう全長二〇〇メートルの長いエスカレーター。途中の円形ホールでは、世界最大級の万華鏡が静かに光を放っています。
その幻想的な空間を通り抜ける頃には、もう心はすっかり非日常へと連れ去られているのです。

けれども、私がいちばん惹かれる場所は、茶の庭エリアにひっそりと佇む「光琳屋敷」です。
そこは、江戸時代の絵師・尾形光琳が晩年を過ごした京都の屋敷を復元した建物で、光琳自身の設計思想をもとに、建築家・堀口捨己によって再現されたものだといいます。

茶室、書院、居間、さらには台所や浴室まで備えた数寄屋建築。豪奢ではないのに、どこか凛としていて美しい。町人文化の洗練を背景に持ちながら、空間には絶妙な余白があり、必要以上のものが置かれていません。

余計なものを削ぎ落とし、静けさだけが残されている。それなのに不思議と冷たさはなく、むしろ深く落ち着くのです。私はこの場所に来るたび、心がゆっくり整っていくのを感じます。

《紅白梅図屏風》も、この屋敷で描かれたと伝えられています。あの作品を見ていると、光琳は単なる日本画家ではなく、現代のグラフィックデザイナーやアートディレクターに近い感覚を持った人だったのではないかと思えてきます。

たとえば、燕子花図屏風もそうです。
色数は決して多くないのに、驚くほど華やかで、しかも洗練されている。余白の取り方、反復される形のリズム、金地の使い方――そのどれもが、三百年前の作品とは思えないほどモダンです。

光琳は、京都の高級呉服商の家に生まれました。幼い頃から、着物の文様や染織の意匠、美しい工芸品に囲まれて育ったのでしょう。
そうした環境が、彼の「目」を育てたのかもしれません。

しかも光琳は、かなりの美男子だったと伝えられています。京都の社交界では知られた存在で、遊びや洒落にも惜しみなくお金を使ったそうです。けれど、その華やかな遊びもまた、彼の感性を磨く糧になっていたのではないでしょうか。

私は、人の感性というものは、たくさんの美しいものを見て、たくさん遊び、たくさん心を動かされることで磨かれていくのだと思っています。

だからこそ光琳の作品には、技術だけでは届かない軽やかさと色気があるのでしょう。

三百年を経ても古びない。
それどころか、今なお新鮮で、現代の空間に置いても少しも違和感がない。私はそんな光琳の作品世界に、すっかり心を奪われています。

だから何年かに一度、またMOA美術館を訪れたくなるのです。作品を「鑑賞しに行く」というより、むしろ旧い知人に会いに行く感覚に近いのかもしれません。

《紅白梅図屏風》は、一つの美術作品です。
けれど私にとっては、忘れられない昔の恋人に、そっと会いに行くような存在なのです。


私の好きな楽器の中に Cello があります
今日は、この曲をお届けいたしましょう!

Mischa Maisky performs Bach’s Prélude from his Cello Suite No. 1 in G Major, BWV 1007

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