Essays & Music

⭐︎River Flows In You│Smooth & Relaxing  (Violin,Cello&Piano ver.)

Essays & Music

金の中の一筆

MOA美術館を訪れたときのことです。

館内に再現された黄金の茶室を前にして、私は正直あまり心が動かなかった。眩しいほどの金。整いすぎた空間。どこか息苦しさすら感じて、足早にその場を離れようとした。

侘びや寂びの、あの静かな余白に惹かれてきた私には、この空間はどうにも馴染まなかったのでした。

そのときだった。

「もう少し、ちゃんとご覧になってください」

背後から、学芸員の方に声をかけられた。思いがけず足を止めることになり、私は少しだけ居心地の悪さを感じながら振り返った。

「この中に、一つだけ本物があります」

そう言われて初めて、私はもう一度、茶室の中に視線を戻した。金に囲まれた空間の中に、ひっそりと掛けられた一幅の書がある。それは、豊臣秀頼が幼い頃に書いたものだと説明された。不思議なほどに弱く、そしてやわらかく見えた。整ってはいない。むしろ、どこか心もとない。だが、その揺らぎの中に、目を留めさせる何かがあった。

ふと、豊臣秀吉と千利休のことを思う。

すべてを金で満たそうとした者と、削ぎ落とすことで美を見いだそうとした者。

もしこの茶室に、利休が立っていたなら、何を見ただろうか。金の輝きの奥に、この一筆のかすかな気配を見逃さなかったのではないか――そんな気がした。

豪奢な空間の中で、その書だけがどこか頼りなく、そして不思議なほどにやわらかく見えた。

整っていない。完成されていない。けれど、その一筆には、金では作り出せない何かがあった。私は、先ほどまで感じていた違和感の理由に、ようやく気づいた気がした。

金は、完成された美なのかもしれない。誰の目にも分かる強さで、圧倒する美である。

けれど、その書は違った。未熟で、揺らぎがあって、どこか心もとない。だがその不完全さの中にこそ、目を離せなくなる気配があった。

それは、私が好きだと思ってきたもの――侘びや寂びに、どこか通じていた。

もしあのまま立ち去っていたら、私はこの一幅に気づかなかっただろう。

金の輝きの中に紛れてしまいそうな、小さな筆の跡。その前に立ち止まらせてくれた一言を、私は静かにありがたく思った。

美しいものは、いつも分かりやすい姿でそこにあるとは限らないのでした。


千利休に想いを馳せながら
優しい曲をお送り致します

River Flows In You│Smooth & Relaxing  (Violin,Cello&Piano ver.)

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