Essays & Music

⭐︎Future Dreams

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白いりんごの花

新緑が目にやさしい季節のある日のこと。

長年りんごを取り寄せている農家さんから、「りんごの花が見頃になりました。よろしければ、いらっしゃいませんか」と、お電話をいただいた。

その農家さんのりんごは、私がこれまで食べた中で、いちばん美味しいと思えるりんごだった。特に好きなのは「ふじ」。毎年欠かさず取り寄せていたけれど、不思議なことに、生産者さんにお会いしたことは一度もなかった。

いつか、どんな方がこのりんごを育てているのだろう。そんな思いを胸に、私は週間天気予報を眺めながら、訪ねる日を心待ちにしていた。

せっかくなら山道のドライブも楽しみたいと思い、主人を誘ってみた。ちょうど同級会の翌日なら都合も良いと言うし、その頃から天気も回復する予報だった。何度も予定を確認したあと、私は農家さんに「明日の午後、少しお邪魔させてください」と連絡を入れた。

ところが当日になって、さあ出かけようとした時だった。前夜、泥酔して帰宅した主人が、二日酔いの顔で「今日は行かない」と言うのである。

かなり前から約束していたはずだった。
もう十年以上、二人で遠出などしていなかった。会話も以前ほど多くはない。それでも私は、主人も少しは楽しみにしてくれているのだと思っていた。

久しぶりの二人のお出かけだとわかっているなら、少しくらいお酒を控えてくれてもよかったのではないか――。そんな思いが胸に込み上げ、怒りに似た感情へと変わっていった。

けれど、農家さんにはもう連絡をしている。
この晴天を逃したら、今年はもうりんごの花を見られないかもしれない。

私は急遽、一人で汽車に乗ることを決めた。

初めて乗る盛岡行きの汽車は、静かに、ゆっくりと走り出した。窓の外には、新芽をまとったやわらかな緑の景色が、どこまでも続いている。その緑を眺めているうちに、不思議と心のささくれがほどけていった。
「ああ、やっぱり来てよかった」
そんな気持ちが、少しずつ私の中に広がっていった。

盛岡に着いて昼食を済ませ、お土産を選び、駅前からタクシーに乗った。運転手さんは、白髪のやさしそうなおじいさんだった。

案の定、「カーナビはないんですよ」と言われ、私は携帯の地図を頼りに案内することになった。

道すがら、「今日はいいお天気でよかったですね」と話しかけられ、私は二十分ほどの道のりを楽しむことにした。

「今日は、りんごの花を見に行くんです。本当は主人と車で来る予定だったんですけど、昨夜酔っぱらって帰ってきて、朝になったら行かないって言うので、一人で来たんですよ」

そう笑って話すと、運転手さんは信号待ちでこちらを振り返り、

「いやぁ、私がそんなことをしたら、うちの妻は一週間、口をきいてくれませんよ」

と言って、もう一度こちらを見た。

「よく許しましたねぇ」

その言葉に、私は思わず大きくうなずいた。
「やっぱり、普通はそうですよね」
心の中でそうつぶやきながら、私は少し救われた気持ちになっていた。

やがて、りんご畑が見えてきたところでタクシーを降りた。

農家さんのお宅では、穏やかなご夫婦があたたかく迎えてくださった。軽トラックに乗せてもらい、りんご畑へ向かう。

そこには、一面の白い花が咲き誇っていた。

「受粉のための蜂は、昨日戻ってしまったんですよ」

そう聞いたけれど、それでも何匹かの蜂たちが、名残惜しそうに花の蜜を集めていた。

りんごの花は、思っていた以上に可憐だった。
品種によって花の形も色も少しずつ違う。私の好きな「ふじ」は、青空によく映える、真っ白な花を咲かせていた。

その白い花を見上げながら、私は改めて思った。「来てよかった」と

その時、ふと頭に浮かんだのは、ドイツの神学者マルティン・ルターの言葉だった。
「たとえ明日、世界が滅びようとも、今日私はリンゴの木を植える」

腰の高さほどに育った若いりんごの苗木が、たまらなく愛おしく見えた。

この言葉は、いつも私の心の奥深くで静かに響いている。どんな時にも、小さな希望を手放さずに生きていく――。そんな勇気を与えてくれる、大切な言葉のひとつなのである。

りんごの花言葉は
「選ばれた恋」
「名声」
「誘惑」
「後悔」

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