Essays & Music

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隆 慶一郎さんの墓参り

かつて『週刊少年ジャンプ』に連載されていた『花の慶次』を、私は夢中になって読んだことがある。連載は1990年から1993年。原作は隆慶一郎の小説『一夢庵風流記』である。少年漫画誌に掲載されていながら、その内容はどこか大人びていて、当時の私にはとても新鮮に感じられた。

物語の主人公は、戦国時代の傾奇者(かぶきもの)として知られる前田慶次である。慶次は戦国武将・前田利家の親族とされる人物で、常識や形式にとらわれない、豪快で自由な生き方をする男として描かれていた。派手な装いで戦場を駆け抜け、巨大な槍を振るいながら敵陣に現れる。その一方で、弱い者には情け深く、義理と友情を何より大切にする。そんな人物像は、それまで私が読んできた少年漫画の主人公とは少し違い、武士の生き様や男の矜持を強く感じさせるものだった。

豪胆で破天荒な慶次だが、晩年は上杉家の家臣・直江兼続に招かれ、米沢で静かに暮らしたとも伝えられている。戦場で名を馳せた武将が、茶の湯や和歌を楽しむ風流人でもあったという点も、慶次という人物の魅力の一つだろう。勇敢でありながら自由を愛し、同時に文化を嗜む。その多面的な人間像こそが、今なお慶次が伝説として語り継がれている理由なのではないかと思う。

このような人物を描いた隆慶一郎という作家に、私は強い興味を抱いた。漫画をきっかけに原作小説を読み、さらに彼の他の作品も手に取った。そこには、歴史を知る楽しさと、武士の生き様を学ぶ喜びがあり、同時に登場人物への憧れの気持ちが芽生えていった。歴史の人物が単なる過去の存在ではなく、まるで今も生きているかのように感じられたのである。

小説のあとがきだっただろうか。隆慶一郎は、自分が亡くなったら箱根の峠の、景色のきれいな場所に埋めてほしいと書いていたように記憶している。その一文が、なぜかずっと心に残っていた。

隆慶一郎は1987年に亡くなっている。ある日私は、その言葉を思い出し、仕事を早めに切り上げて熱海へ向かった。熱海駅でタクシーに乗り込み、運転手さんにその話をしてみると、「たぶん十国峠のあたりにお墓があると思いますよ。行ってみましょう」と言って車を走らせてくれた。

到着したのは広い墓地だった。けれども、よく考えてみると、墓石には普通戒名が刻まれている。ペンネームである「隆慶一郎」という名前では見つからないのではないかという気もしていた。すると、運転手さんが近くにいたお坊さんに尋ねてくれた。しばらくして戻ってきたお坊さんが、「あちらにありますよ」と案内してくれた。

そこには、はっきりと「隆慶一郎」と刻まれた墓石があったのである。

思いもよらない形で、私は隆慶一郎という作家に会えたような気持ちになった。運転手さんが水を汲んだ桶を持ってきてくれ、私は静かに墓前に手を合わせた。

隆慶一郎は、単なる歴史小説家ではなかった。彼は、戦国の人物たちを現代に生き返らせる案内人だったのだと思う。人物に対する深い愛情があったからこそ、読む者の心を動かし、こうして私をここまで足を運ばせたのだろう。

それから私は、何度もこの墓を訪れている。昨年も熱海へ墓参りに行ったので、これで五回目になる。毎年同じタクシーの運転手さんにお願いしているので、今では何も言わなくても水桶を持って付き添ってくれる。今年は東京から真っ赤な花のアレンジメントを持っていった。暗い色の墓石に、その赤がよく映え、とても美しかった。

墓前に立つと、隆慶一郎が言った通り、そこは実に景色のよい場所だった。遠くまで見渡せる山の風景の中で、私は静かに手を合わせながら、あの物語の世界に思いを馳せていた。

今日は、私のお気に入りの曲を…

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