あの日の覚悟
あの日、全てが流され、命だけが助かりました。震災直後の街は、あまりにも無力感に包まれていました。道路は流され、燃料は不足し、人が移動することすら一苦労。そんな中、私に一筋の光が差し込んだのは、山道を通って会いに来てくれたお客様の存在でした。お米やガソリンなど、すぐに必要な物資を持ってきてくれたその姿に、私は本当に助けられました。そのお客様は、店を開いた時からずっと通ってくださる、私が娘のように思ってきた方でした。
持ってきてくれたガソリンのおかげで、ようやく店の様子を見に行くことができました。到着した私は、呆然と立ち尽くしてしまいました。ウィンドウは壊れ、二台の車が入り口を覆っていました。ドアの鍵は、海水で錆びて使い物にならなくなっていたのです。店内に目を向けると、ぎっしりと並んでいた商品は一つも残っておらず、泥の中に魚や人参が転がっていました。その日、私は街の様子と被害の状況を把握することしかできませんでした。
次の日からは、泥かきが始まりました。泥の中から商品を拾い集め、何度も何度も水洗いを繰り返しました。まだ寒い時期で、手が悴んで感覚を失うほどでした。毎日の作業の中で、私を支えてくれたのは、娘のようなお客様が持ってきてくれた温かいお昼ご飯でした。彼女は、「今日はカレーライスだよ」「今日はお好み焼きだよ」「今日はおにぎりだよ」と、毎日私たちにご飯を運んでくれました。不思議なことに、お腹が満たされると、体だけでなく心まで元気を取り戻して、前向きな気持ちになれたのです。
その時、春物の商品がぎっしりと入荷したばかりでしたが、全て流されてしまいました。商品はなくなり、しかし代金の請求書だけが届きました。あの額は、正直に言って、働かなければ返せないほどの大金でした。そんな中、私の実家にいる母が、ALSという病気でほとんど動けない状態にもかかわらず、その瞼を使ってパソコンを操作し、「お父さんに頼んで、お金を送ってやって!」と打ってくれました。そのおかげで、商品の代金の一部を支払うことができました。
年齢的にも、商売を辞めることを考えたこともありましたが、次の支払いのため、そして修理費や新たに商品を仕入れるためのお金を用意しなければ、この店は続けられません。命からがら逃げた方々のことを思うと、着替えさえも持っていない状況で、取り急ぎ、泥にまみれた商品を全てクリーニングに出しました。それらをただで配るわけにはいかないので、¥1000〜¥2000で販売することにしました。また、メーカーさんからは「皆さんに配ってください」と、ソックスや不織布の袋が送られてきました。私はそれらを、来店されたお客様にお配りしつつ、安否確認も兼ねて一人一人に声をかけました。
不安の中で、私は莫大な借金をして、再び立ち上がることを決心しました。その借金が返せるかどうか、考える余裕などありませんでした。目の前には、困っている人たちがたくさんいたからです。
そのため、新しい店舗は急いで立ち上げました。震災から約ひと月後の4月19日、仮店舗がオープンしました。前日まで、準備が整わない中でのオープンにスタッフも驚きましたが、私はどうしてもこの日にオープンしたかったのです。なぜなら、この日は、毎日私たちにお昼ご飯を運んでくれた娘のようなお客様の誕生日だったからです。彼女の恩を決して忘れないためにも、この日にオープンすることに意味があると感じていました。
震災後、商売を続けるかどうかを迷う余地など、正直言ってありませんでした。あの状況にいたら、ただ一つ、前に進むしかなかったのです。周りの人々が私に与えてくれた勇気と支えに応え、再び店を開く決意を固めました。
今日は2023年公開の宮崎駿監督
映画「君たちはどう生きるか」の
主題歌「地球儀」をお届けします
米津玄師 – 地球儀 Kenshi Yonezu – Spinning Globe
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